読んでいない本について堂々と語る方法(ピエール・バイヤール 著) (amazon

買ったけどまだ読んでない。敬意を評して読まずに書いてみる。手に入れて全く読まずにはいられなかったので、目次と数ページは見てしまったが。

(追記: もう少し読んでみたけど、別に変える必要もないのでそのままにしておく。節ごとに要約がついているところが面白い。「序」で

私は本というものをあまり読まない環境に生まれた。私自身、本を読むことがそれほど好きなわけでないし、

とあるが、これって自分の理想状態とかが高すぎるだけじゃないの?割に参考文献はあるし(夏目漱石まである!)。ちなみにここに挙げられている文献を私はほとんど読んでないが。)

読書感想文を書くときには、要約してはダメで自分のことについて書くといい、とか聞いたことはないだろうか?多分、この本にもその類のことが書いてあるだろう。目次を見ると

III.心がまえ

4.自分自身について語る

とあるので。語るからにはその話を聞く人が必要だが、聞く人が本を読んでいない場合には何を語っても大した問題にはなりそうもない。どうせ読んでいないのだから。聞く人がすでにその本を読んでいる場合はどうだろう。さて、その人はいったい何を聞きたいのだろうか?本の内容は知っているはずだから、わざわざ時間をとって内容を確認するために人の話を聞くということはなさそうだ。話をする人の考えそのものを聞きたいから話を聞くのだろう。その要望にこたえるには、本の内容を話してもむしろ仕方ないということになる。読書ってのは本の中身を自分に取り込んだり読むことで自分の考えを形成する過程だから、語るときには既にそれは本そのものではない。語る内容はその人の心の世界(の一部)なわけだ。それなら、別にその本を読んでいる必要はない。

語るだけならこれでいいのかもしれないが、我々のように論文を書くとなるとそのまま適用できるかはちょっと考える必要がある。まず、既存文献と同じ内容ではacceptされない。この時点で読まずに済ますというわけにはいかなくなるかもしれない。ただし、ある程度は回避できる。世にはテキストやサーベイ論文というものが存在する。どちらもそれまでに書かれた論文を(著者の観点で)まとめたものである。これである程度「世界」を把握することが可能だ。もちろん、最新の文献はそこにはないので、それくらいは見ておかないといけない。さらに、これはあくまでも他人の世界だ。丸呑みでは自分の世界を形成できない。

参考となりそうな文献はいつ読むべきなのだろうか?書くネタも決まってないなら、とりあえず何か読むしかない。ネタが決まっていて方針もある場合は、とりあえず読まずに書いてみていいだろう。書かなければいつまで経っても論文にはならない。後から読んだ誰かの論文とかぶっていたらどうするんだって?100%丸かぶりってことはそんなにないんじゃないだろうか(要検証)。よく似ることはありそうだが。不幸にも100%丸かぶりだったら、自分の論文をどこか変更するしかない。それでも、書いたものが全く無駄になることはないだろう。

経済学的には、読書に費やせる時間は最大24時間/日なのでそこからどれだけどのように割り当てるかという選択をすることになる。省略する方法は人によって異なるだろうが。ある先生のところに本を借りに行ったときの話。何冊か見ていると奇妙なことに気づく。前書きのあたりはラインが引いてあるが、後ろのページはそれはきれいなものだった(ここからどうすべきという結論を性急に出すつもりはないが)。

この本は読まないことを選択するという話をしているが、上記の先生はちょっと読む(要約だけ読むに近いか?)という選択をしている。他には速読のように1冊あたりの時間を短くすることも考えられる。速読についてはテクニックを習得するコストが高そうなのとどれくらい頭に残るかがわからないので何とも言えないが、そのうち本の内容を無理やり頭に詰め込む技術は出てくるかもしれない。この本は別に本を読まなくていいんだと説いて安心させようとしているが、この本がベストセラーになるということは、読まないといけないという強迫観念に多くの人は駆られることを示している。つまり、時間短縮の技術に対する需要は高いかもしれない。実際、ビデオなら倍速再生というものがある。私もよく利用しており、映画さえこれで見ることも。「そんなことするくらいなら見なければいいのに」と言われたりもするが、それは求めるものが若干異なるが故の違いに過ぎない。雰囲気などを若干犠牲にしても(間が変わる、曲のテンポが変わる、聞き取るための時間が減少するなど)、ストーリーを短時間で見たいという私の選好順序からの帰結である。私にとっての倍速再生の効用は高い。時間を節約した分は他のこと(ネット、読書、思索、論文書き、・・・)に費やせる。書籍でこのようなことは実現するだろうか?多分、書籍を電子化した先にその未来はあるのだろう。それが遠い将来じゃないことを願っておこう。


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Last-modified: 2011-11-11 (金) 16:23:59 (4542d)