予想どおりに不合理(ダン・アリエリー 著)(amazon

 最近多い行動経済学についての読み物。後発組なせいか、今までのより面白いかな?(といっても全ての本を読んだわけではないので、一番面白いかの評価はできない。自分で見比べて判断してもらうしかない。読んだ順番にも依存するし。普通の人は1冊読めば十分なわけだが。)類書を読んだことがないなら、間違いなくお勧め。もし類書を既に読んでいても、5章だけでも読む価値あり(性的な記述に拒否感のある人除く)。普通の本は分析者の視点って政策当局(あるいはその批判者)ってのが大多数(当然)だけど、これは「患者としての経済学者」ってのが含まれているのが面白い。
 面白いのだけど、以下は微妙に辛口のコメント含む(辛口部分は私の研究動機から来るところが大きいので、あまり気にしないほうがいいかも)。別に、実験経済学自体を否定したいわけではない。私もやっているわけだし。また、何も書いていない章についても、つまらないわけでは決してない。

以下、どこでもダウンロードできる参考文献には「**」を、山大でダウンロードできる文献には「*」をつけておく。

はじめに−一度のけががいかにわたしを不合理へと導き、ここで紹介する研究へといざなったか−

 著者は全身に大やけどを負い、そのときの入院治療の経験が元になって行動経済学の研究を始めたとのこと。後に研究成果を病院に持って行きその病院での治療方法には影響を与えたとのことだが、世界中の医療機関にその成果はちゃんと伝わっているのだろうか?

1章 相対性の真相−なぜあらゆるものは−そうであってはならないものまで−相対的なのか−

 我々の意思決定は選ばなかった代替案や過去の経験に引きずられる、他の財との相対的な比較が効いているとの研究。この章の最後で

これはわたしたちみんなが活用できる教訓だ。人は持てば持つほどいっそう欲しくなる。唯一の解決策は、相対性の連鎖を断つことだ。

とある。経済学について無知な人にとっては重要な内容だろう。しかし、この内容は行動経済学者だけが言ってきたのではない。
 完全競争モデルでは(効用に他人の消費などが入っていなければ)自己の効用・利潤の最大化を行うことで、均衡において社会的余剰の最大化(パレート効率性)が達成される。他方、ゲーム理論が教えるとおり、人のことを気にするとき(ナッシュ)均衡では一般にパレート効率性は保証されない。
 アダム・スミス以来、全ての経済学者は自由貿易の重要性を認識してきた(と言って間違いではないと信じる)。保護貿易とそのための産業政策を主張する人は相対性の罠に陥っている可能性が高いと考えられる。特に、「国の」国際競争力なんてもの(ナンセンスだことだ)を主張する人はそうだろう。保護貿易は輸入を制限することで途上国の輸出を妨げその成長を阻害する。これは自国以外を引き下げて相対的に自国の地位を高めようとしているようなものである。どれだけ豊かになったかで重要なのは他国とのGDPなどの比較ではなく、過去の「自国の」GDPとの比較だ。成長率は国によって差がある(発展度合に差があるから)のだから、中国やインドの高成長は当然のことである。それを気にするのは単に追いつかれることに脅威を感じているだけであって、これは相対性の罠そのものである。

2章 需要と供給の誤謬−なぜ真珠の値段は−そしてあらゆるものの値段は−定まっていないのか−

気になった箇所

  • P.79-80

    政府がある日ガソリンの値段を倍増させる税を課そうと決めた場合・・・需要が減るはずだ。だが、そうだろうか。・・・しかし、長い目で見ると、消費者が新しい値段と新しいアンカーに再順応しさえすれば・・・新しい値段でのガソリン消費量は、税が課される以前のレベルに近づくだろう。・・・(トウモロコシ由来のエタノール燃料など)のようなほかの変化も導入されれば、再順応にかかる時間は短縮されるかもしれない。

    手が滑ったか?車社会であればあるほどガソリンは必需品となるので、理論的予想でもそれほど需要量は減らない。(所得を一定とすれば)他の様々な財に対する需要が少しずつ減るだけだ。最初にガツンと減ってその後戻っていくことの説明には参照点の議論なんて必要ない。おそらく、値下がりへの期待と消費計画を作成しなおすには少々時間が必要というだけで説明がつく。
    ガソリン高くなったから、入れるの少し待ってみるか。(ガソリン消費量減)
    →下がらないな。車使えないのも不便だ。
    →他で節約するか。どこを削ろうか?
    →他の財の消費量減(ガソリン消費量増)
    てな感じだろう。人によってタイミングはバラバラだから、ガソリン消費量は次第に戻っていく。
     代替エネルギーについても、ガソリンより安くなければ普及するはずもなく、安い代替エネルギーとガソリンを合計すれば消費はそれほど減らないに決まっている。
     行動経済学者には自分たちの考えた理屈「だけ」で説明できるというバイアスでもあるんじゃないだろうか。自分たちの分野を発展させたい、経済学を変えていこうという考えはわかる。しかし、今までの理論で説明可能なのにそれを無視するのはアンフェアというものだろう。単に意図せずかもしれないが、それならそれで考察が足りないとの批判を免れない。

3章 ゼロコストのコスト−なぜ何も払わないのに払いすぎになるのか−

4章 社会規範のコスト−なぜ楽しみでやっていたことが、報酬をもらったとたん楽しくなくなるのか−

 労働市場のありかた、能力給などに関心がある人は一読すべき。

5章 性的興奮の影響−なぜ情熱はわたしたちが思っている以上に熱いのか−

 よくこんな実験を実現できたなと、感心せずにはいられない。ただ一つ気になるとすれば、これによって経済学者の人格が疑われないようにということだけだ。

6章 先延ばしの問題と自制心−なぜ自分のしたいことを自分にさせることができないのか−

7章 高価な所有意識−なぜ自分の持っているものを過大評価するのか−

8章 扉をあけておく−なぜ選択の自由のせいで本来の目的からそれてしまうのか−

 頭を使うことのコストについての章。研究以外のことにとらわれすぎて研究がおろそかになるのはよくあることだが、回避するのはそう簡単ではない。こんなことを書いている間にも、その時間を論文読みに費やせばもう少し生産性も上がる・・・といいのに。

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9章 予測の効果−なぜ心は予測したとおりのものを手に入れるのか−

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10章 価格の力−なぜ一セントのアスピリンにできないことが五〇セントのアスピリンならできるのか−

 プラシーボ効果についての章だが、最初に出てくるのは薬ではなくプラシーボ手術!の話。手術の有効性もプラシーボ実験によって明らかにできる。倫理的に問題視する人が多いとのことだが、必要ならやはり確かめられるべきだろう。一方で、もう一人の私は「必要ってのは誰がどうやって決めるんだ?」問うているが。

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11章 わたしたちの品性について その1−なぜわたしたちは不正直なのか、そして、それについて何ができるか−

 不正直さを減らし不正を減らす(ここでは意思や法律家など専門家の不正について注目している)のにはどうしたらいいのかを考察している章。

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12章 わたしたちの品性について その2−なぜ現金を扱うときのほうが正直になるのか−

 現金が直接見える場合と比べて、そうでない場合は不正が増加することを示した章。現代のようにカードや電子マネー、銀行間での振替といった取引が増えてくると、その危険性は増大する。
 そもそも、お金自体が価値を持っているわけでもない引換券なのに、代用貨幣にしただけで行動が変化するのがちょっと不思議。

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13章 ビールと無料のランチ−行動経済学とは何か、そして、無料のランチはどこにあるのか−

 料理(実験ではビール)を注文するとき、後から選ぶ人は先に選んだ人の選択に影響を受けるかを確かめた実験。アメリカでは人と異なる選択をしようとする「独自性欲求」が、香港では人と同じものを頼もうとする行動がそれぞれ観測された。
 これを著者は選択の失敗と結論付けているようだが、他人と異なる(同じ)選択をすることによる効用は考慮しないのだろうか?(もちろん通常の場合、効用関数の中には自分の消費しか入っていないが、この評価は最初にそれを受け入れることを意味するのではないか)
 また、この章で言っている「無料のランチ」とは費用がかかったとしても純便益がプラスになることを指している。現在の状態に非効率が存在して、さらにそれを低コストで解決できればいいということ。さて、この本で出てくる非効率性は簡単に解決できるものなのだろうか?

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Last-modified: 2014-06-29 (日) 15:17:06 (3583d)

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