*伊藤元重教授の復興増税コラムについて

元記事はこちら。
-東京大・大学院教授 伊藤元重「震災のつけ、次代に残すな」(産経ニュース、2011.4.24)
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/110424/fnc11042403120001-n1.htm

一番悪いのがタイトルです。「つけを残すな」って、今回日本国民は何か悪いことでもしたんでしょうか?原発に関してはともかく、地震自体は明らかに天災でしょう。毎年こんな大地震が起こるわけではないので、社会厚生関数(知らない人は、社会全体の効用関数と思っておいてください)が凹関数(正確にはquasi-concaveでOKというべきか)なら将来世代(死んだ人は負担できないので過去の世代が負担するのは不可能)も含めて広く薄く負担するのが当然だと思います。

> 巨額の政府債務で将来世代に重い負担を押しつけているのにそれをさらに増やしてよいのだろうか。

さっさと景気回復させないのは将来世代を貧乏にするので、それはそれで負担を増やしていることになっています。

> 増税をすれば、ただでさえ厳しい震災後の経済をさらに失速させるのではないか、という懸念がある。ただ、経済学で均衡財政乗数という考え方があるが、復興のために増税をしても、その税収をすべて復興のための公共事業や被災者への所得移転として使えば、経済全体の需要にはプラスの効果が働くはずである。

その辺で売ってるマクロのテキストに従えば
 均衡財政乗数(テキストによっては「均衡予算乗数」) = 景気対策効果 - 増税の景気悪化効果
なので、普通に景気対策するより効果は劣るでしょう。

> 震災復興のための増税をまずやり、それとは別に社会保障費のための増税を将来行うというような器用なことが今の日本の財政状況でできるとも思われない。また、増税の手段がたくさんあるわけでもない。震災対応は所得税、社会保障費は消費税と使い分けられるほど余裕はないのだ。

震災復興と社会保障では考えるべき期間が全く異なる(復興は最初の数年間にお金が一気に必要でしょうが、社会保障は人口ピラミッドの形状の問題があるので数十年はかかるでしょう)ため、やはり分けて考えるべきです。また、税金の取り方の問題と使い方の問題は異なる問題であり、それらをリンクさせて議論することは混乱の元です。

> 震災のつけを将来世代に残してはいけない、と先に述べたが、もっと踏み込んだ言い方をすれば、震災を転機により好ましい社会を将来世代に残すことを考えなくてはいけない。

震災の長期的な影響は統計的にはほとんど出てきません。ダメージはあるはずですから、復興過程で効率化しているということでしょう(同様のことを先日の日経新聞「経済教室」で大阪大学の大竹文雄教授が書いています)。個々の対策は必要でしょうが、マクロ的には「特別の」心配をする必要はない気がします。マクロ的には今こそ教科書的な対策が必要なんじゃないでしょうか。



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