実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化に関する有識者会議(第1回)について

配付資料中の冨山和彦委員提出資料ってのが話題になってるらしい。高橋洋一氏のコラムによると、「大学教員の反応は、ー分はG型大学の教員、■矛紳膤悗世、今教えている「理論」は意味があり、冨山氏は大学がわかっていない、というものが多い」らしい。高橋氏はこの資料については特に議論する気がなく、増税に賛成する学者を批判するためのネタに使っているだけである。しかし、この資料自体も経済学的観点から批判されるべきものである(増税の賛否とは全く関係なく)。

資料によると「労働生産性≒賃金が持続的に上昇しなければ問題は解決しない」(P.3)とある(その後数ページは日本の生産性が低いという資料)ので、賃金を上げるための方策が書かれているはずである。その対策はP.8にあるが、以下のような「実践力」を身につけさせるとのことである。

大学で教えるべき内容かどうかを議論してもよい(簿記会計を教えるのはいいことだが、普通の経済経営系の学部には講義は既にある)が、冨山氏が問題としている賃金の上昇をこれらの対策によって達成できるか考えてみよう。まず、これらの対策は労働市場における供給面での対策になる。例えば、法学部での対策にある特殊免許を取得する人が増えると供給曲線は右側にシフトする(供給量の増加)。これによってもたらされるのは、均衡価格の低下、すなわち賃金の下落である。従って、冨山氏の主張する対策は的外れである。

こんなことが起こるのは当然で、そこら中に特殊免許を持つ人があふれるのだから、企業にとってみれば特別な人ではなく雇おうと思えば誰でもよくなる。代わりのきく人に高い給料を払うはずがない。工学部の対策についても同様で、TOYOTAで使われている最新鋭の機械はおそらくTOYOTAにしかないので、そんな技能を身につけた人は(技能を生かそうと思えば)TOYOTAで働くしか選択肢がなくなる。そんな選択肢を持ってないような人たちにTOYOTAは高い給料を支払う理由がない。「不満があるならうちで働かなくてもいいよ」というだけの話である。

どうしてこんなことが起きたのだろうか?需要曲線と供給曲線の図を思い出せば簡単で、需要曲線のことを考慮していない(需要曲線は右下がりなので、供給曲線が右にシフトすると交点は右下に来る)からこの結果に気づかないのである。

そもそも、このような対策で賃金が上がるなら働きたい人はさっさとそちらにシフトするはずである。例えば免許は自動車学校に通って取るので、本当に高賃金が期待できるなら自動車学校は混雑するので儲かって仕方ないはずである。ところが、実態はどうかというと「窮地に立たされている」ようである。

冨山和彦氏とはどのような人物なのか検索するとWikipediaが出てくる。それによると、東大法学部卒の経営コンサルタント・経営者であるらしい。経済学のことはかけらも分かっていないように見えてしまう。実際、経済・経営学部の対策の箇所には経営学のことしか書いていない。さらに小さい文字で「ポーターの5Forcesは使ったことが無い」と書いてあるが、使ったことがないのではなく理解できていないのかもしれない(ポーターの話は産業組織論の知見を元にできている)。需要曲線が分からないと言うことは、経営の方で話をするとマーケティングが分からないことに対応する(どうやったら売れるかという話なので)。そんなことで「日本のトップ戦略コンサルタント」って名乗っているのだから、他のコンサルタント達はどう思うのだろうか。

まあ、経営者が経済学について理解しないというのはこの人に限った話ではない。Googleの創業者もこんなもんである。残念なことではあるが、結構多いのかもしれない。


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