ゼミ生向け/産業組織の経済学/第8章
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[[ゼミ生向け/産業組織の経済学]] *第8章 情報の非対称性と企業行動 こんにちは。第八章の後半部分の演習問題を担当する寺です。~ 今回は、ちょっと詳しい説明を載せてみました。 **設問1. 問題文「広告費売上高比率が高い産業と低い産業を挙げ、理由として考えられる要因を列挙せよ」 解答「広告費売上高比率が高い産業には、化粧品産業や食品産業などがある。理由として考えられる要因としては次の二つを挙げることができる。一つ目。これらの産業では情報の非対称性が大きく、広告に対する需要の弾力性が高いこと。二つ目。品質やブランド・イメージを消費者が重視する商品では、需要の価格弾力性が低いこと。~ 広告費売上高比率が低い産業には、電力産業や市内電話産業などがある。理由として考えられる要因としては、地域独占のため広告に対する需要の弾力性が低いことが挙げられる」~ 解説。本設問は、教科書143ページの(5)式、ドーフマン・スタイナーの最適広告費の条件を使って解く。最適広告費の条件は、以下のように表記される。~ TA /Pq = εA / εP~ ここでTAは広告総費用を意味する。Pqは売上高を意味する。εAは広告に対する需要の弾力性、~り広告が需要に与える比率的効果を意味する。そしてεPは需要の価格弾力性を意味する。~ 左辺のTA /Pqは広告総費用を売上高で除したものなので、広告費売上高比率と呼ぶ。~ ここで左辺のTA /Pq、即ち広告費売上高比率の値は右辺のεA 及びεPの値によって左右さ~ れる。告費売上高比率がεA 及びεPの値によってどのように変化するかをまとめると、以下の~ ようになる。 広告費売上高比率が高い場合→εA 即ち広告に対する需要の弾力性(広告が需要に与える比率的効果)が高い。~ (またはあるいはおよび)~ εP 即ち需要の価格弾力性が低い。・・・・・条件,箸垢~ 広告費売上高比率が低い場合→εA 即ち広告に対する需要の弾力性(広告が需要に与える比~ 率的効果)が低い~ (またはあるいはおよび)~ εP 即ち需要の価格弾力性が高い・・・・・条件△箸垢~ 広告費売上高比率が高い産業について。 解答では、広告費売上高比率が高い産業は化粧品産業や食品産業であると述べられている。その理由として、「情報の非対称性が大きく、広告に対する需要の弾力性が高い」からとある。化粧品や食品は、使って見なければ品質が分からない、食べて見なければ味が分からない経験財である。経験財である以上は、消費者は情報なくしては事前にその品質を推測することができない。そしてその情報はもっぱら広告など外部からの資料に頼ることになる。つまり、広告が品質に対する評価に大きな影響を及ぼすので、広告が需要に与える比率的効果も高いということになる。言い換えると、広告に対する需要の弾力性が高いということになる。条件,ら分かるように、広告に対する需要の弾力性が高い場合、広告費売上高比率は高くなる。したがって化粧品産業や食品産業では広告費売上高比率が高い。 また、化粧品や食品産業において広告費売上高比率が高い理由の二つ目に、「品質やブランド・イメージを消費者が重視する商品では、需要の価格弾力性が低い」からとある。需要の価格弾力性とは、価格の変化の割合に対する需要の変化の割合のことである。だから需要の価格弾力性が低いということは、価格が変化しても、需要があまり変化しないということである。例えば価格がかなり上昇しても需要はさほど減らない場合、需要の価格弾力性は低い。 具体例として、化粧品についてシャネルを考えてみよう。今ここにシャネルの化粧品があったとして、それに間違いなく本物であるという保証があった場合、ブランド物が好きな消費者は少々値がはったとしてもそれを購入するはずである。このようにブランド・イメージを消費者が重視する商品では、少々値段が高くても消費者がそれを購入するといったことが起こる。つまり需要の価格弾力性が低いといえる。条件,ら分かるように、需要の価格弾力性が低い場合、広告費売上高比率は高くなる。したがって化粧品産業や食品産業では広告費売上高比率が高い。 広告費売上高比率が低い産業について。 解答では、広告費売上高比率が低い産業は電力産業や市内電話産業であると述べられている。その理由として「地域独占のため、広告に対する需要の弾力性が低い」からとある。電力会社は自然独占である。地域ごとに各電力会社が独占を行っている。だから消費者は、その地域を独占している電力会社から電力を購入するしかない。つまり広告を出そうと出すまいと、消費者による(各電力会社への)電力の需要はたいして変化しない。つまり広告が需要に与える比率的効果が低い、言い換えると広告に対する需要の弾力性が低いということになる。市内電話産業についても同様のことが言える。条件△ら分かるように、広告に対する需要の弾力性が低い場合、広告費売上高比率は低くなる。したがって、電力産業や市内電話産業では広告費売上高比率が低い。 **設問2. 問題文「ある企業の今年の年間売上高は1.2億円と予想されている。この企業が広告を1%増やすと需要は0.05%増加し、価格を1%値上げすると需要は0.3%減ると推計されているならば、この企業にとって最適な広告支出はいくらか」 解答「本文(5)式より TA = Pq ×(εA / εP)=0.2億円」 解説。本設問も、ドーフマン・スタイナーの最適広告費の条件を使用して解く。 前述のように、ドーフマン・スタイナーの最適広告費の条件は以下のように表記される。 TA /Pq = εA / εP ここでTAは広告総費用を意味し、Pqは売上高を意味する。εAは広告に対する需要の弾力性、つまり広告が需要に与える比率的効果を意味し、εPは需要の価格弾力性を意味する。 本設問は、この式に与えられた条件から数値を代入していくだけで解ける。 本設問で問題になっているのは、「最適な広告支出はいくらか」ということであるため、TAの値を導きだせばよいということになる。今、年間売上高は1.2億円であるから、Pq の値は1.2である(単位は億円)。εAは広告に対する需要の弾力性、即ち広告費の変化の割合に対する需要の変化の割合である。今、広告を1%増やすと需要は0.05%増加するため、εAの値は0.05割る1、つまり0.05となる。εPは需要の価格弾力性、即ち価格の変化の割合に対する需要の変化の割合である。今、価格を1%値上げすると需要は0.3%減少するため、εPの値は0.3割る1、つまり0.3となる。これまでの内容を整理すると、Pq の値は1.2、 εA の値は0.05、 εPの値は0.3である。最適広告費の条件、即ちTA /Pq = εA / εPの両辺にPqをかけると、TA = Pq ×(εA / εP)となる。 これに先の値を代入すると、TA=1.2×(0.05/0.3)となる。 1.2に0.05をかけると0.06となる。そして0.06を0.3で割れば0.2となる。つまり、TAの値は0.2である。今、単位は億円なので、TAは0.2億円となる。 **設問3. 問題文「広告には費用がかかるので、広告をしている商品の価格は広告していない商品価格より高くなりそうなものだが、実際にはむしろ逆で、広告している商品の方が価格が低いことが多い。これはなぜだと考えられるか」 解答「広告されない商品では、消費者の探索費用が高いため競争が起こりにくい。また、独占企業が存在する市場では価格が高く、同時に広告の効果が小さく広告への誘因も弱いから」 解説。問題文の記述を整理すると、次のようになる。 広告をしている商品の価格→実際は低い。 広告をしていない商品の価格→実際は高い。 解答では、広告をしていない商品の価格が実際には高いことに焦点を当てて解説している。 「広告されない商品では、消費者の探索費用が高いため競争が起こりにくい」とある。この意味を補足したい。広告されない商品の情報は消費者に伝わらない。消費者がその情報を得るためには、情報検索のための費用を負担しなければならない。すると消費者は、わざわざ金をかけて情報を得る甲斐がないと推測される場合には、情報の検索を行わなくなる。その結果広告が行われる場合と違い、可能な限り安いところから商品を買う、といったことが起こらなくなるので、つまり競争が起こりにくいので、企業は高い価格を商品に設定することができるようになる。したがって、広告されない商品は高い価格となる場合が多い。 解答の続きに「独占企業が存在する市場では価格が高く、同時に広告の効果が小さく広告への誘因も弱いから」とある。独占企業には競争相手がいないので、もちろん利益をあげるために高い価格を設定する。このとき広告を行おうが行うまいが、消費者は独占企業の商品しか購入できない。したがって企業は、わざわざ金をかけて広告を行おうとはしない。その結果広告を行わない商品の価格が高くなるということが起こる。 **設問4. 問題文「政府が企業に情報開示を義務付けるディスクロージャー制度は一般的に望ましいか」 解答「ディスクロージャー法のメリットは本文を参照。他方、ディスクロージャー法には消費者が必要としない情報の開示のためにも企業に多大な費用をかけさせる危険がある」 解説。本設問は、教科書147ページから149ページまでの記述を参考にして解けばよい。 147ページの二段落目に、「政府によるディスクロージャー法は必要だろうか。虚偽の広告や不正表示が」云々という文章がある。これを要約すると次のようになる。 「虚偽の広告や不正表示が厳しく取り締まられている前提では、市場メカニズムがディスクロージャーを促すので、政府によるディスクロージャー制度は特に必要ではない」 147ページの三段落目に、「ただし、実際には以下に示すように、市場が効率的に機能しないことも多い。それによる損害が大きいと考えられる場合、ディスクロージャーの義務付けや促進は有益である。」とある。 この二つの文章をまとめると次のようになる。「虚偽の広告や不正表示が厳しく取り締まられている前提では、市場メカニズムがディスクロージャーを促すので、政府によるディスクロージャー制度の義務付けは特に必要ではない。しかし実際には市場が効率的に機能しないことも多く、それによる損害が大きいと考えられる場合、政府によるディスクロージャー制度の義務付けは有益である。」 したがって、政府が企業に情報開示を義務付けるディスクロージャー制度は一般的に望ましいということになる。 補足説明。教科書268ページに「ディスクロージャー法のメリットは本文を参照」とあるが、この「本文」とは、148ページの文章のことである。148ページの上から二行目に「第一に、現実にはすべての企業が虚偽や不正表示をしないよう取り締まることは難しい」とある。また上から七行目に、「第二に、上述したメカニズムは品質の相対的な水準の開示しか促さない」とある。さらに上から九行目に「第三に、そもそもディスクロージャーにコストがかかる場合も企業は開示に消極的となる」とある。そして上から十二行目に、「ディスクロージャーのルールによって情報開示の規格を標準化すれば、消費者がさまざまな品質を比較しやすくなるメリットもある」とある。 これらの文をまとめれば、次のようになる。「虚偽の広告や不正表示が厳しく取り締まられている前提では、市場メカニズムがディスクロージャーを促すが、現実には全ての企業が虚偽や不正表示をしないよう取り締まることは難しい。また正しい内容の情報開示がなされたとしても、その情報が不十分な場合がある。そもそもディスクロージャーにコストが掛かる場合、企業は開示に消極的となるから、市場メカニズムがディスクロージャーを促す効果に大きく期待することはできない。」 したがって、政府によるディスクロージャー制度の義務付けは、虚偽や不正表示の取り締まりを厳格化し、情報の十分な開示を強制し、また積極的に情報開示をさせるというメリットがある。さらに、ディスクロージャーのルールによって情報開示の規格を標準化することにより、消費者が様々な品質を比較しやすくなるというメリットもある。 ディスクロージャー法のデメリットについては、解答のとおりである。企業は消費者がどのような情報を必要としているか正確に知ることができない。そのため余分な情報も開示してしまうことになり、その情報の開示のために多大なコストをかけてしまう可能性がある。 **設問5. 問題文「企業Aが企業Bに品質sの製品を売る。企業Aの生産費用はas、企業Bが製品の販売によって得られる利益はbsだとする」 (1)「企業Aと企業Bの取引が効率的な場合に、aとbの間にどのような関係が成立するか」 (2)「企業Aと企業Bがsを知っている場合、どのような条件の場合に取引するか」 (3)「企業Aはsを知っているが、企業Bは0とmとの間で一様の確立で分布していることしかわからないとする。企業Aが価格Pでこの製品の製造・販売をオファーした場合に企業Bはsはどの間にあると考え、そのオファーの価格をどう評価するか。企業間の取引が成立するのはどのような場合か」 解答「(1)a<b。(2)a<b。(3)企業Aが生産するための条件は0≦s≦P/a。sは一様に分布しているので、企業Bが予想する平均的な品質はP/2a。取引が成立するための条件はPb/2a>P。すわち2a<b」 解説。本設問において重要なのは、「取引が効率的な場合」という言葉の意味である。 (1)について。取引のときの製品の価格をPとする。「取引が効率的な場合」という言葉は「それぞれの企業が損をしないように最適な行動をとる場合」と言い換えることができる。まず企業Aの行動について考える。企業Aの生産費用はasであるが、取引価格Pがそれよりも小さい場合、企業Aは損することになる。したがって取引が効率的な場合、Pはasよりも大きい値をとる(即ちas<P)。次に企業Bの行動について考える。企業Bが製品の販売によって得られる利益はbsであるが、それが取引価格よりも小さい場合、企業Bは損することになる。したがって取引が効率的な場合、bsはPよりも高い値をとる(即ちP<bs)。as<Pという条件とP<bsという条件を両方満たすのは、as<bsの場合である。両辺をsで割ってやると、 a < b が成立する。したがって企業Aと企業Bの取引が効率的な場合に、aとbの間にはa < b の関係が成立する。 (2)について。この問題も(1)と同様の考え方で解ける。企業Bは品質sを知っているので、当然企業Aが不当に高い取引の価格を設定したときにはそれに応じない。したがって取引が行われる場合、取引の価格Pよりも品質sの製品を売って得られる利益bsの方が大きくなる。したがって先ほどと同様にas < bs が成立し、 a < b が成立する。よって企業Aと企業Bが品質sを知っている場合、a < b の場合に取引する。 (3)について。 今、製品の品質がs、企業Aの生産費用がas、企業Bが製品の販売によって得られる利益がbs、そして企業Aが企業Bに売り渡す製品の価格がPである。 企業Aは、儲からなければ生産しない。だから生産するには、生産費用asが企業Bに売るときの価格P以下の値でなければならない(即ちas ≦ P )。両辺をaで割ってやると、s ≦ P/a が成り立つ。 またsは品質であるから、マイナスの値をとることはない。したがって0 ≦s が成り立つ。この二つの条件を合わせると、0 ≦ s ≦ P/a となる。sは一様に分布しているので、企業Bが予想する平均的な品質は、1/2×(0+P/a)となる。これを計算すると、P/2aとなる。したがって企業Bが製品の販売によって得られる利益bsの値は、b×P/2a、すなわちPb/2aとなる。 設問1や設問2と同じ理由で、P < bs が成立する。今、bsの値はPb/2aなので、P < Pb/2a が成立する。これを変形すると2a < b となる。 つまり、企業Aが価格Pでこの製品の製造・販売をオファーした場合に企業Bはsが0 ≦s ≦P/aの間にあると考え、そのオファーの価格をPとPb/2aの大小関係を比較することで評価し、企業間の取引が成立するのは、2a < bの場合、ということになる。 **質問・その他 -自分で作成したページを読んでみました。改行しないと読みづらいことがわかったので、~ 適当なところで改行してみました。(寺10/2) -まだページを更新している途中です。でもやらなければならないことがあって、今は~ 作業を続けることができません。だから、失礼します。~ もし、また時間ができたら、更新を続けるかもしれません。(寺11/9) -今日配布したやつをそのまま載せておけばいいのに。演習問題の5は問題文自体がちょっとどうかと思う。(鈴木 11/7)
タイムスタンプを変更しない
[[ゼミ生向け/産業組織の経済学]] *第8章 情報の非対称性と企業行動 こんにちは。第八章の後半部分の演習問題を担当する寺です。~ 今回は、ちょっと詳しい説明を載せてみました。 **設問1. 問題文「広告費売上高比率が高い産業と低い産業を挙げ、理由として考えられる要因を列挙せよ」 解答「広告費売上高比率が高い産業には、化粧品産業や食品産業などがある。理由として考えられる要因としては次の二つを挙げることができる。一つ目。これらの産業では情報の非対称性が大きく、広告に対する需要の弾力性が高いこと。二つ目。品質やブランド・イメージを消費者が重視する商品では、需要の価格弾力性が低いこと。~ 広告費売上高比率が低い産業には、電力産業や市内電話産業などがある。理由として考えられる要因としては、地域独占のため広告に対する需要の弾力性が低いことが挙げられる」~ 解説。本設問は、教科書143ページの(5)式、ドーフマン・スタイナーの最適広告費の条件を使って解く。最適広告費の条件は、以下のように表記される。~ TA /Pq = εA / εP~ ここでTAは広告総費用を意味する。Pqは売上高を意味する。εAは広告に対する需要の弾力性、~り広告が需要に与える比率的効果を意味する。そしてεPは需要の価格弾力性を意味する。~ 左辺のTA /Pqは広告総費用を売上高で除したものなので、広告費売上高比率と呼ぶ。~ ここで左辺のTA /Pq、即ち広告費売上高比率の値は右辺のεA 及びεPの値によって左右さ~ れる。告費売上高比率がεA 及びεPの値によってどのように変化するかをまとめると、以下の~ ようになる。 広告費売上高比率が高い場合→εA 即ち広告に対する需要の弾力性(広告が需要に与える比率的効果)が高い。~ (またはあるいはおよび)~ εP 即ち需要の価格弾力性が低い。・・・・・条件,箸垢~ 広告費売上高比率が低い場合→εA 即ち広告に対する需要の弾力性(広告が需要に与える比~ 率的効果)が低い~ (またはあるいはおよび)~ εP 即ち需要の価格弾力性が高い・・・・・条件△箸垢~ 広告費売上高比率が高い産業について。 解答では、広告費売上高比率が高い産業は化粧品産業や食品産業であると述べられている。その理由として、「情報の非対称性が大きく、広告に対する需要の弾力性が高い」からとある。化粧品や食品は、使って見なければ品質が分からない、食べて見なければ味が分からない経験財である。経験財である以上は、消費者は情報なくしては事前にその品質を推測することができない。そしてその情報はもっぱら広告など外部からの資料に頼ることになる。つまり、広告が品質に対する評価に大きな影響を及ぼすので、広告が需要に与える比率的効果も高いということになる。言い換えると、広告に対する需要の弾力性が高いということになる。条件,ら分かるように、広告に対する需要の弾力性が高い場合、広告費売上高比率は高くなる。したがって化粧品産業や食品産業では広告費売上高比率が高い。 また、化粧品や食品産業において広告費売上高比率が高い理由の二つ目に、「品質やブランド・イメージを消費者が重視する商品では、需要の価格弾力性が低い」からとある。需要の価格弾力性とは、価格の変化の割合に対する需要の変化の割合のことである。だから需要の価格弾力性が低いということは、価格が変化しても、需要があまり変化しないということである。例えば価格がかなり上昇しても需要はさほど減らない場合、需要の価格弾力性は低い。 具体例として、化粧品についてシャネルを考えてみよう。今ここにシャネルの化粧品があったとして、それに間違いなく本物であるという保証があった場合、ブランド物が好きな消費者は少々値がはったとしてもそれを購入するはずである。このようにブランド・イメージを消費者が重視する商品では、少々値段が高くても消費者がそれを購入するといったことが起こる。つまり需要の価格弾力性が低いといえる。条件,ら分かるように、需要の価格弾力性が低い場合、広告費売上高比率は高くなる。したがって化粧品産業や食品産業では広告費売上高比率が高い。 広告費売上高比率が低い産業について。 解答では、広告費売上高比率が低い産業は電力産業や市内電話産業であると述べられている。その理由として「地域独占のため、広告に対する需要の弾力性が低い」からとある。電力会社は自然独占である。地域ごとに各電力会社が独占を行っている。だから消費者は、その地域を独占している電力会社から電力を購入するしかない。つまり広告を出そうと出すまいと、消費者による(各電力会社への)電力の需要はたいして変化しない。つまり広告が需要に与える比率的効果が低い、言い換えると広告に対する需要の弾力性が低いということになる。市内電話産業についても同様のことが言える。条件△ら分かるように、広告に対する需要の弾力性が低い場合、広告費売上高比率は低くなる。したがって、電力産業や市内電話産業では広告費売上高比率が低い。 **設問2. 問題文「ある企業の今年の年間売上高は1.2億円と予想されている。この企業が広告を1%増やすと需要は0.05%増加し、価格を1%値上げすると需要は0.3%減ると推計されているならば、この企業にとって最適な広告支出はいくらか」 解答「本文(5)式より TA = Pq ×(εA / εP)=0.2億円」 解説。本設問も、ドーフマン・スタイナーの最適広告費の条件を使用して解く。 前述のように、ドーフマン・スタイナーの最適広告費の条件は以下のように表記される。 TA /Pq = εA / εP ここでTAは広告総費用を意味し、Pqは売上高を意味する。εAは広告に対する需要の弾力性、つまり広告が需要に与える比率的効果を意味し、εPは需要の価格弾力性を意味する。 本設問は、この式に与えられた条件から数値を代入していくだけで解ける。 本設問で問題になっているのは、「最適な広告支出はいくらか」ということであるため、TAの値を導きだせばよいということになる。今、年間売上高は1.2億円であるから、Pq の値は1.2である(単位は億円)。εAは広告に対する需要の弾力性、即ち広告費の変化の割合に対する需要の変化の割合である。今、広告を1%増やすと需要は0.05%増加するため、εAの値は0.05割る1、つまり0.05となる。εPは需要の価格弾力性、即ち価格の変化の割合に対する需要の変化の割合である。今、価格を1%値上げすると需要は0.3%減少するため、εPの値は0.3割る1、つまり0.3となる。これまでの内容を整理すると、Pq の値は1.2、 εA の値は0.05、 εPの値は0.3である。最適広告費の条件、即ちTA /Pq = εA / εPの両辺にPqをかけると、TA = Pq ×(εA / εP)となる。 これに先の値を代入すると、TA=1.2×(0.05/0.3)となる。 1.2に0.05をかけると0.06となる。そして0.06を0.3で割れば0.2となる。つまり、TAの値は0.2である。今、単位は億円なので、TAは0.2億円となる。 **設問3. 問題文「広告には費用がかかるので、広告をしている商品の価格は広告していない商品価格より高くなりそうなものだが、実際にはむしろ逆で、広告している商品の方が価格が低いことが多い。これはなぜだと考えられるか」 解答「広告されない商品では、消費者の探索費用が高いため競争が起こりにくい。また、独占企業が存在する市場では価格が高く、同時に広告の効果が小さく広告への誘因も弱いから」 解説。問題文の記述を整理すると、次のようになる。 広告をしている商品の価格→実際は低い。 広告をしていない商品の価格→実際は高い。 解答では、広告をしていない商品の価格が実際には高いことに焦点を当てて解説している。 「広告されない商品では、消費者の探索費用が高いため競争が起こりにくい」とある。この意味を補足したい。広告されない商品の情報は消費者に伝わらない。消費者がその情報を得るためには、情報検索のための費用を負担しなければならない。すると消費者は、わざわざ金をかけて情報を得る甲斐がないと推測される場合には、情報の検索を行わなくなる。その結果広告が行われる場合と違い、可能な限り安いところから商品を買う、といったことが起こらなくなるので、つまり競争が起こりにくいので、企業は高い価格を商品に設定することができるようになる。したがって、広告されない商品は高い価格となる場合が多い。 解答の続きに「独占企業が存在する市場では価格が高く、同時に広告の効果が小さく広告への誘因も弱いから」とある。独占企業には競争相手がいないので、もちろん利益をあげるために高い価格を設定する。このとき広告を行おうが行うまいが、消費者は独占企業の商品しか購入できない。したがって企業は、わざわざ金をかけて広告を行おうとはしない。その結果広告を行わない商品の価格が高くなるということが起こる。 **設問4. 問題文「政府が企業に情報開示を義務付けるディスクロージャー制度は一般的に望ましいか」 解答「ディスクロージャー法のメリットは本文を参照。他方、ディスクロージャー法には消費者が必要としない情報の開示のためにも企業に多大な費用をかけさせる危険がある」 解説。本設問は、教科書147ページから149ページまでの記述を参考にして解けばよい。 147ページの二段落目に、「政府によるディスクロージャー法は必要だろうか。虚偽の広告や不正表示が」云々という文章がある。これを要約すると次のようになる。 「虚偽の広告や不正表示が厳しく取り締まられている前提では、市場メカニズムがディスクロージャーを促すので、政府によるディスクロージャー制度は特に必要ではない」 147ページの三段落目に、「ただし、実際には以下に示すように、市場が効率的に機能しないことも多い。それによる損害が大きいと考えられる場合、ディスクロージャーの義務付けや促進は有益である。」とある。 この二つの文章をまとめると次のようになる。「虚偽の広告や不正表示が厳しく取り締まられている前提では、市場メカニズムがディスクロージャーを促すので、政府によるディスクロージャー制度の義務付けは特に必要ではない。しかし実際には市場が効率的に機能しないことも多く、それによる損害が大きいと考えられる場合、政府によるディスクロージャー制度の義務付けは有益である。」 したがって、政府が企業に情報開示を義務付けるディスクロージャー制度は一般的に望ましいということになる。 補足説明。教科書268ページに「ディスクロージャー法のメリットは本文を参照」とあるが、この「本文」とは、148ページの文章のことである。148ページの上から二行目に「第一に、現実にはすべての企業が虚偽や不正表示をしないよう取り締まることは難しい」とある。また上から七行目に、「第二に、上述したメカニズムは品質の相対的な水準の開示しか促さない」とある。さらに上から九行目に「第三に、そもそもディスクロージャーにコストがかかる場合も企業は開示に消極的となる」とある。そして上から十二行目に、「ディスクロージャーのルールによって情報開示の規格を標準化すれば、消費者がさまざまな品質を比較しやすくなるメリットもある」とある。 これらの文をまとめれば、次のようになる。「虚偽の広告や不正表示が厳しく取り締まられている前提では、市場メカニズムがディスクロージャーを促すが、現実には全ての企業が虚偽や不正表示をしないよう取り締まることは難しい。また正しい内容の情報開示がなされたとしても、その情報が不十分な場合がある。そもそもディスクロージャーにコストが掛かる場合、企業は開示に消極的となるから、市場メカニズムがディスクロージャーを促す効果に大きく期待することはできない。」 したがって、政府によるディスクロージャー制度の義務付けは、虚偽や不正表示の取り締まりを厳格化し、情報の十分な開示を強制し、また積極的に情報開示をさせるというメリットがある。さらに、ディスクロージャーのルールによって情報開示の規格を標準化することにより、消費者が様々な品質を比較しやすくなるというメリットもある。 ディスクロージャー法のデメリットについては、解答のとおりである。企業は消費者がどのような情報を必要としているか正確に知ることができない。そのため余分な情報も開示してしまうことになり、その情報の開示のために多大なコストをかけてしまう可能性がある。 **設問5. 問題文「企業Aが企業Bに品質sの製品を売る。企業Aの生産費用はas、企業Bが製品の販売によって得られる利益はbsだとする」 (1)「企業Aと企業Bの取引が効率的な場合に、aとbの間にどのような関係が成立するか」 (2)「企業Aと企業Bがsを知っている場合、どのような条件の場合に取引するか」 (3)「企業Aはsを知っているが、企業Bは0とmとの間で一様の確立で分布していることしかわからないとする。企業Aが価格Pでこの製品の製造・販売をオファーした場合に企業Bはsはどの間にあると考え、そのオファーの価格をどう評価するか。企業間の取引が成立するのはどのような場合か」 解答「(1)a<b。(2)a<b。(3)企業Aが生産するための条件は0≦s≦P/a。sは一様に分布しているので、企業Bが予想する平均的な品質はP/2a。取引が成立するための条件はPb/2a>P。すわち2a<b」 解説。本設問において重要なのは、「取引が効率的な場合」という言葉の意味である。 (1)について。取引のときの製品の価格をPとする。「取引が効率的な場合」という言葉は「それぞれの企業が損をしないように最適な行動をとる場合」と言い換えることができる。まず企業Aの行動について考える。企業Aの生産費用はasであるが、取引価格Pがそれよりも小さい場合、企業Aは損することになる。したがって取引が効率的な場合、Pはasよりも大きい値をとる(即ちas<P)。次に企業Bの行動について考える。企業Bが製品の販売によって得られる利益はbsであるが、それが取引価格よりも小さい場合、企業Bは損することになる。したがって取引が効率的な場合、bsはPよりも高い値をとる(即ちP<bs)。as<Pという条件とP<bsという条件を両方満たすのは、as<bsの場合である。両辺をsで割ってやると、 a < b が成立する。したがって企業Aと企業Bの取引が効率的な場合に、aとbの間にはa < b の関係が成立する。 (2)について。この問題も(1)と同様の考え方で解ける。企業Bは品質sを知っているので、当然企業Aが不当に高い取引の価格を設定したときにはそれに応じない。したがって取引が行われる場合、取引の価格Pよりも品質sの製品を売って得られる利益bsの方が大きくなる。したがって先ほどと同様にas < bs が成立し、 a < b が成立する。よって企業Aと企業Bが品質sを知っている場合、a < b の場合に取引する。 (3)について。 今、製品の品質がs、企業Aの生産費用がas、企業Bが製品の販売によって得られる利益がbs、そして企業Aが企業Bに売り渡す製品の価格がPである。 企業Aは、儲からなければ生産しない。だから生産するには、生産費用asが企業Bに売るときの価格P以下の値でなければならない(即ちas ≦ P )。両辺をaで割ってやると、s ≦ P/a が成り立つ。 またsは品質であるから、マイナスの値をとることはない。したがって0 ≦s が成り立つ。この二つの条件を合わせると、0 ≦ s ≦ P/a となる。sは一様に分布しているので、企業Bが予想する平均的な品質は、1/2×(0+P/a)となる。これを計算すると、P/2aとなる。したがって企業Bが製品の販売によって得られる利益bsの値は、b×P/2a、すなわちPb/2aとなる。 設問1や設問2と同じ理由で、P < bs が成立する。今、bsの値はPb/2aなので、P < Pb/2a が成立する。これを変形すると2a < b となる。 つまり、企業Aが価格Pでこの製品の製造・販売をオファーした場合に企業Bはsが0 ≦s ≦P/aの間にあると考え、そのオファーの価格をPとPb/2aの大小関係を比較することで評価し、企業間の取引が成立するのは、2a < bの場合、ということになる。 **質問・その他 -自分で作成したページを読んでみました。改行しないと読みづらいことがわかったので、~ 適当なところで改行してみました。(寺10/2) -まだページを更新している途中です。でもやらなければならないことがあって、今は~ 作業を続けることができません。だから、失礼します。~ もし、また時間ができたら、更新を続けるかもしれません。(寺11/9) -今日配布したやつをそのまま載せておけばいいのに。演習問題の5は問題文自体がちょっとどうかと思う。(鈴木 11/7)
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