気になった話を記録しておく。要するにただのメモw。

過去のもの

今年のもの

  • Coinhive裁判4年間の舞台裏 担当弁護士が見た、始まりから逆転無罪前夜まで (ITmedia NEWS 2022.2.2)
     Coinhiveというマイニングを行うプログラムを自身のwebサイトに仕込むことが不正指令電磁的記録保管罪に問われるかを争った裁判。判決全文を紹介した記事によると、「利用者の意図する動作をさせないなどの「反意図性」と、社会的に許容できない影響を与えるなど「不正性」の2つ」が要件となるとのこと。マイニングするとの告知はないし利用者にもマイニングにマシンパワーを使われるという認識はないから問題だけど、広告表示と大差ないから許容できる範囲だろ、という判決。

ラムザイヤー論文について

ラムザイヤー氏(三輪&ラムザイヤーの日本経済関連の著作が有名)の慰安婦についての論文で署名活動が起きてるとのこと(杉野先生から教えてもらう)。

  • 署名活動 Letter by Concerned Economists Regarding "Contracting for Sex in the Pacific War" in the International Review of Law and Economics https://chwe.net/irle/letter/ 

正直、「何やってんのか、正気を疑う」って感じ。批判は自由だと思うが、査読を通った論文に対して「署名集めて撤回させよう」って何だよ。論文の査読者や雑誌の編集者バカにしてんの?学者が論文に対する批判するなら、論文書けばいい*1。「学問の自由」どこ行った?

署名活動については以下で紹介されている。

記事を読んでて、特に気に障った部分についてコメント。

声明は、ラムゼイヤー論文の問題として次の5点をあげている。

1.証拠を提示することもないまま、

それで査読通る雑誌のカギ括弧付き論文なんてImpact Factorつくくらい引用されるわけもないし読む価値ないでしょ*2。で、Impact Factorによる経済系雑誌のランキングは・・・「387 International Review of Law and Economics, Elsevier 4.106」。はい、真っ当な雑誌のようです、ありがとうございました。「証拠を提示することもない」なんて言及は信じがたい。複数の査読者や編集者が全員「証拠なし」をスルーしたと言うなら、それこそそれなりの根拠が必要。

3.女性たちが・・・給与ももらっていたという仮定。

もらってる人もいただろうし、親が前払いでもらっているケースもあり得る。親が子を売るという話に納得できない人はいるだろうが、そういう時代の話だから*3。今と社会的状況・法律やルールも異なるのだから、現在と混同して論じるべきではない。

だが、ゲーム理論を使ったといいながら法と経済学の学術誌に載せているのに、論文には数式やxyなどの変数は一切登場しない。

数式がないと論文じゃないとでも?この手の論文で必要なのはほぼ原資料への言及で、複雑なモデルではないと思う。そもそも、経済学のテキストでも「モデル」=「数式」とは言っていないはず(「図」でもモデルだし、何なら歴史での「年表」もモデルだ。地図や地球儀・プラネタリウムもモデルだろうから、理系でも数式のないモデルは使われる)。「Review of Law and Economics」は海外誌だけど、日本で(「法と経済学」を解する)法学者たちに「数式なかったら論文じゃない」とか言ったら総スカンじゃないかな。これは別に「ゲーム理論の論文」じゃなく、教科書的な概念を使った程度でしょ(要旨で「elementary」言ってる)。借りてきた話で一からモデルを書かなければならないとは思わん。ゲーム理論との関連については、下の文献が参考になるとのこと。

  • 芸娼妓契約 −性産業における「信じられるコミットメント (credible commitments)」(RAMSEYER, M., "Indentured Prostitution in Imperial Japan:Credible Commitments in the Commercial Sex Industry" の日本語訳) http://hdl.handle.net/2115/15533

多分、経済学者は軽い感じで署名する人が多いのだろう(注:個人の印象です)。日本の経済学者もおそらくそう。例えば、東日本大震災のときの復興増税賛同者リスト(なくならないように自分で魚拓)。直接被害に遭った者の一人としては当時非常に腹立たしかった。

元論文は以下。興味ある人はどうぞ。

  • Ramseyer, J., "Contracting for sex in the Pacific War," International Review of Law and Economics 65, online published, 2021. 本文PDF
  • 上記論文の要旨(DeepLによる日本語訳)

The protracted political dispute between South Korea and Japan over the wartime brothels called "comfort stations" obscures the contractual dynamics involved. These dynamics reflected the straightforward logic of the "credible commitments" so basic to elementary game theory. The brothel owners and potential prostitutes faced a problem: the brothel needed credibly to commit to a contractual structure (i) generous enough to offset the dangers and reputational damage to the prostitute that the job entailed, while (ii) giving the prostitute an incentive to exert effort while working at a harsh job in an unobservable environment.

(戦時中の売春宿「慰安所」をめぐる韓国と日本の長期にわたる政治的論争は、その契約上の力学を見えにくくしている。これは、初等ゲーム理論の基本である「信頼できる約束」のわかりやすい論理を反映したものである。売春宿のオーナーと潜在的な売春婦は問題に直面していた。すなわち、売春宿は、(i)仕事に伴う売春婦の危険性と評判の低下を相殺するのに十分な寛大さがあり、(ii)観察不可能な環境で過酷な仕事に従事しながら努力するインセンティブを売春婦に与える、という契約構造を信頼できる形で約束する必要があった。)

Realizing that the brothel owners had an incentive to exaggerate their future earnings, the women demanded a large portion of their pay upfront. Realizing that they were headed to the war zone, they demanded a relatively short maximum term. And realizing that the women had an incentive to shirk, the brothel owners demanded a contractual structure that gave women incentives to work hard. To satisfy these superficially contradictory demands, the women and brothels concluded indenture contracts that coupled (i) a large advance with one- or two-year maximum terms, with (ii) an ability for the women to leave early if they generated sufficient revenue.

(彼女たちは、売春宿の経営者が将来の収入を誇張するインセンティブを持っていることを知り、給料の多くを前払いすることを要求した。また、戦地に向かうことを知っていたので、比較的短い最長期間を要求した。また、売春宿のオーナーは、女性には怠けるインセンティブがあることを認識し、女性が懸命に働くインセンティブを与えるような契約形態を要求した。このような表面的には矛盾する要求を満たすために、女性と売春宿は、(i)多額の前金と1年または2年の最長契約期間、(ii)十分な収入を得た場合には早期に退去することができる、という内容の契約を結んだのである。)

署名活動やラムザイヤー論文批判についての反論は例えば以下。

  • 慰安婦問題に関するラムザイヤー教授論文撤回を求める経済学者声明の事実関係の誤りについて (歴史認識問題研究会 2021.3.28) http://harc.tokyo/?p=1921

2022年1月に、ラムザイヤー教授自身による反論がdiscussion paperとしてまとめられた本文PDF)。

MMTまとめ


*1 もちろん、査読による評価って仕組み自体を否定したいなら、そういう世界もあっていいと思う。実際、IT系ではそんな感じ。ただ、そういう人たちは「Impact Factor高い雑誌に掲載されないといけない」なんて金輪際言わないでいただきたい。
*2 炎上商法という戦略はあり得るが、これはそんなケースではないだろう。
*3 いわゆる「口減らし」の一種。海外出稼ぎも口減らしと似たようなもん・・・ってか、人によっては「よくわからん土地で仕事(して仕送り)」する方が精神的負担はより大きいかもしれない。そのように考えれば、「口減らし」は日本特有の話ではないし、現在進行形の国も存在する。

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Last-modified: 2022-11-02 (水) 06:32:08 (540d)

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